堀内大使によるアフリカ情勢報告(第3回:2021年4月21日)

令和3年4月22日
アフリカ連合(AU)日本政府代表部の大使の堀内俊彦です。アフリカがどこに向かおうとしているのかをお伝えしようと思い、メルマガ(第3号)をお送りします。これまで名刺交換やメールのやりとりをさせていただいた方にお送りしていますが、ご不要の場合は、恐れ入りますが、本メールへの返信でお知らせください。
 アフリカ連合(AU)は毎年その年のテーマを決めていますが、今年2021年のテーマは「芸術、文化、遺産:我々が望むアフリカを建設するためのテコ」です。今回はこのテーマについてお伝えします。
 
【賛否両論】
 このテーマは独自の文化を誇るマリのケイタ大統領(当時)が提唱したもので、今年2021年2月のAU総会で正式に決定されました。
 これに対しては、早速、色々な意見が出ています。賛同する意見としては、これまでないがしろにされてきた文化にようやく光が当たった、アフリカの尊厳のためにも必要なテーマである、若者がアフリカの記憶を再確認することで、オーナーシップを再認識することに繋がるといった意見があります。逆に否定的な意見としては、他にもっとやることがあるのではないか、文化と切っても切り離せないイベントやフェスティバルが新型コロナ感染症の影響で実施できなくなってしまい、盛り上がりに欠けるといった声があります。
 
【興味深い点】
 次に、このテーマのもとで検討されている点、重視されている点をいくつかご紹介します。
●コンテンツ産業(Creative economy)の重視
 文化といえばアフリカの尊厳と結びつけて考えられることが多いのですが、実利的なことも重視していることが伺えます。コンテンツ産業振興のための芸術教育も重視されています。
●言語問題
 地域言語、アフリカの言語、宗主国の言語が共存する中で、公用語をどうするか、教育の現場で何語を使うか等、言語の問題は、古くて新しい問題ですが、方向性としては、アフリカの言語の地位向上を目指しています。
●新型コロナ感染症対策
 新型コロナ感染症対策に伝統医療を活用することや、啓発のために文化芸術関係者の力を活用することが考えられています。
●歴史や口承伝統の活用
 例えば、アフリカに固有の紛争予防策や紛争解決策に光を当てようとしています。これは、当地(アジスアベバ)でよく耳にする「African solutions to African problems」を実践するものです。私が当地でお会いしたシンクタンクの方も、「あなたあっての私、私あってのあなた」というUbunty(注)の精神が紛争解決に必要と説かれていました。
(注:Ubuntyはスワヒリ語などを含むバントゥー諸語の言葉です)
●アフリカ大博物館とアフリカ百科事典 
 AUは、アフリカ全体として国境を越えた大陸レベルで実現すべき重要プロジェクトとして、15の旗艦プロジェクトを掲げていますが、文化関係では、この2つが入っています。アフリカ大博物館はアルジェリアに建設される予定です。アフリカ百科事典は、アフリカについてアフリカ自身が記述するとの意気込みが感じられます。
●文化財の返還
 上述のアフリカ大博物館計画と大きく関わる論点として、植民地時代に持ち去られた文化財の返還問題があります。これまでは、返還しても、しっかりした状態で展示、保管されないという理由から旧植民地本国が渋る傾向にありましたが、明らかに潮目が返還の方向へと変わってきているような気がします。
 
【来年のAUのテーマは栄養】
  来年2022年のAUのテーマは「栄養」になる見込みです。コートジボワールが中心になって提唱しています(正式な決定は来年2022年2月のAU総会でになる予定です)。日本は今年12月栄養サミットを開催します。これも含めて、AUと日本とで、一緒に何かできるのではないかと考えています。
(なお、2020年のAUのテーマだった「紛争停止(Silencing the guns)」は、今後10年間の長期的テーマとして、引き続き取り組んでいくことになりました。)
 
 アフリカから学びながら、そして、多くの方の声をお聞きしながら、取り組んで参ります。ご意見をお聞かせいただければ幸いです。
toshihiko.horiuchi@mofa.go.jp
 
2021年(令和3年)4月21日
アフリカ連合日本政府代表部 大使
堀内俊彦