堀内大使によるアフリカ情勢報告(第5回:2021年9月24日)

令和3年9月24日

 「平和と安全保障」。アフリカ連合(AU)が何を最も重視しているか、と聞かれたら、私だったらそう答えます。それは、紛争がいまだ存在するということと、それを(まずは)自分たちで何とかしようというアフリカ側の意気込みがあるということの二重の意味を込めてです。

 今回は、AUが平和と安全保障分野で、何をなし遂げ(あるいはなし遂げようとしているか)、何が引き続き課題なのか、それぞれ3つずつお伝えします。

 

【なし遂げたこと(なし遂げつつあること)3つ】

AU内部改革で首尾一貫性を確保

 つい先日、AUの平和・安全保障分野のトップであるバンコレ・アデオエ(Bankole Adeoye)政治・平和安全保障委員(閣僚に相当)にお会いして意見交換する機会がありました。AUは、組織のスリム化を目指し、2021年3月に従来の政治局と平和安全保障局を統合し、アデオエ委員は、その統合された政治・平和安全保障局の初代委員となりました。アデオエ委員の前職は、出身国ナイジェリアの駐エチオピア大使兼AU常駐代表(AU担当大使)で、AUを熟知する人物です。

 アデオエ委員自身、紛争解決にあたってその対応の連続性(コンティニュアム)と紛争予防を重視しています。紛争がいったん起こってしまった場合のコストと、予防にかけるコストを比較すると、予防がはるかに効果的ということです。この政治部門と平和安全保障部門の統合により、ガバナンスの問題を含め紛争予防や紛争初期の段階から首尾一貫して対応しやすくなります。アデオエ委員は当地の外交団からも大きな期待を集めています。

●ピア・レビュー

 AUには、加盟国同士が対等な立場からお互いにお互いを評価するピア・レビューの仕組みがあります(African Peer Review MechanismAPRM))。お互いで評価しあうので第三者評価とは異なり自ずと限界もありますが、外部からの上から目線的な一方的な評価にはない、実際の行動変容をもたらす力や、好意的評価が更に好意的評価を生んでいく正の連鎖も期待できます。

 AUでは、クーデタなどによる政権交代があった場合、その国はAUの資格が停止されます。これはクーデタに対する大きな抑止力にもなっています。過去においてアフリカに多くの専制体制があり、かばい合いがあったことも事実ですが、今のAUは、自ら非立憲的なるものへの申し立てを行うまでになっています。物事が螺旋状に良くなっていくことを感じます。

●伴走型ミッションの試み

 2021年4月、チャドでは現職大統領がテロとの戦いの前線視察中に亡くなるとの事態が起こり、大統領の息子(軍人)が暫定的に国家のトップに就任し、18か月以内のスムーズな民政への移管が課題になっています。そこで、AUは、自らチャドと二人三脚的に民政移管へと歩む計画を立てました。残念ながら、チャドとの調整が整わず計画したようには物事は進んではいませんが、AUによる、このようないわば伴走型ミッションは革新的なミッションです。当事者(国)の同意がないと、強制力に欠けるAUには限界があることも改めて明らかになりましたが、今後の一つのモデルになるのではないかと思います。

 

【課題3つ】

●財政の外部への依存

 AUは「アフリカの問題にはアフリカの解決を(African solutions to African problems)」をモットーに紛争解決にも当たっていますが、財政面では外部パートナー、特にEUに大きく依存しています(たとえば、2019年だけでもEUは平和安全保障分野で1億7千万ユーロの協力を実施(EUの資料より))。AUも加盟国による分担金を増やしてきてはいますが、財政の持続性は大きな課題です。

●質的にも量的にも色々な紛争

 紛争といっても、その様相はさまざまで、AUでは、テロ、紛争と女性、食料安全保障と紛争、気候変動と紛争、平和の文化等々いろいろな観点から紛争問題に取り組んでいます。

 また、サヘル、ソマリア、チャドをはじめAUの関与が必要となる紛争が同時に複数起こっています。

 このように質的にも紛争が複雑化し、量的にも複数の紛争が同時並行で発生する中、AUは限られたリソースで対応しなければいけない状況です。

●紛争に弱い社会?

 AUの紛争解決能力を云々する前に、そもそも、アフリカには紛争に弱い社会、つまり、ちょっとしたことから紛争に発展しやすい社会、いったん収まっても紛争が再燃しやすい社会が多いのではないかと思います。これをいかにして、紛争に強い社会、つまり、ちょっとやそっとのことでは紛争が起こりえない、起こりにくい社会に変えていくかが紛争問題の真の課題だと思います。外部から新たな価値観ややり方を一方的に持ち込むだけでなく、伝統的な地域社会に根ざした紛争解決の習慣など、アフリカの社会に内在する手法、在来知にももっと光を当てた方がいいのではないかと思います。AUだけでなく、日本を含む外部パートナーも考えなければいけない課題だと思います。

 

 アフリカから学びながら、そして、多くの方の声をお聞きしながら、取り組んで参ります。ご意見をお聞かせいただければ幸いです。

toshihiko.horiuchi@mofa.go.jp

 

2021年(令和3年)9月24日

アフリカ連合日本政府代表部 大使

堀内俊彦