堀内大使によるアフリカ情勢報告(第9回:2022年3月5日)

令和4年3月5日

アフリカ連合(AU)日本政府代表部の大使の堀内俊彦です。アフリカがどこに向かおうとしているのかをお伝えしようと思い、メルマガ(第9号)をお送りします。

 今回は、2月17日、18日にブリュッセルで行われたAU-EUサミットについてです。AU-EUサミットは、前回2017年にコートジボワールで行われて以来、新型コロナ感染症の影響で度々延期になっていましたが、ようやく対面開催にこぎつけました。

 サミットの合意文書として出された「A Joint Vision for 2030」から主な項目を見ていきます。この手の文書としては比較的短く6ページからなる文書で、言葉(美辞麗句)よりも行動を、との考えもあるようです。

 EUは、AUにとって財政面での最大のパートナーであると同時に、統合の面からも「先行」していますので、その点から私も注目していましたが、新型コロナ感染症のインパクトを強く意識しつつ、AUとEU共通の課題、あるいはそれぞれの「こだわりポイント」を盛り込んだものになっています。

 

【主な成果(合意内容)】

●「Two Unions, a joint vision

 まずは地理的にも最も近い隣人同士のパートナーとして「Two Unions, a join vision」を掲げています。この共通のビジョンの目的としては、連帯、安全保障、平和、持続的経済開発、市民そして将来世代の繁栄のためのパートナーシップの刷新、強化を打ち出しています。

 

●「パートナーシップの刷新」

 パートナーシップの刷新には、短期と長期の両方の視点から課題とチャンスに対処する必要があるとした上で、例えば以下を挙げています。(注:断りのない限り、主語は「我々(つまりAUとEU)」です(以下同様)。)

・EUはアフリカへ4.5億回分のワクチンを供与する(ことを改めて表明する)。

・EUはアフリカによるワクチンの自前生産をはじめとする保健主権を支持する。

・WTOはパンデミックとの戦いに貢献すべき。知的財産権に関する事項を含めWTOのパンデミックへの対応に関する合意形成のために協力する。

・新型コロナ感染症の経済への影響を考慮して、債務に関する国際的枠組みを支持する(注:この文脈で、債務救済やSDRのアフリカへの優遇的割り当てにも言及しています)。

・違法な金融フローと戦う。

・交換留学生制度(Erasmus+)の拡大や大学間の交流により若者や学生間の交流を強化する。

 

●「繁栄して持続的なアフリカとヨーロッパ」

 EUは、既に表明済みだった「グローバル・ゲートウェイ」構想の一環として、少なくとも1,500億ユーロからなるアフリカ・ヨーロッパ投資パッケージを表明しました。このパッケージは今回合意した共通のビジョンとAUのアジェンダ2063を支援するためのもので、投資、保健、教育のパッケージから成り立ち、多様で包摂的で持続的で強靭な経済を築くためのものとのことです。具体策は以下です。

・グローバル・ゲートウェイ投資パッケージでは以下の優先分野を考慮する:PIDA(注:AUの広域インフラ計画です)、エネルギー転換、グリーン転換、DX、持続的成長とディーセントな雇用創出、運輸、人的資源。

・保健と教育も重視する。

・民間投資を刺激するための公的資金の活用。

・AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)による地域統合の推進。

 

●「平和と安全保障のための協力を刷新し強化する」

・長年にわたるAUとEUの間の協力を基にしつつも、さらに、訓練、能力開発、装備分野での協力の強化、アフリカ自身による平和活動の強化を目指す。

・サイバーセキュリティー、法の支配、WPS(女性と平和と安全保障)などでも協力する。

 

●「移民と人の移動に関する相互的なパートナーシップ」

・不適切な移民や人身売買を防止するために協力する。

・庇護や難民申請を求める人々に対する持続的な解決策を見つけるために協力を強化する。

・頭脳流出問題や、職業訓練を通じた若者や女性への投資にも取り組む。

 

●「多国間主義へのコミットメント」

 効果的な多国間主義の促進のために協力するとして、以下の項目を挙げています。

・SDGsとアジェンダ2063と整合的に、国際場裡での共通のポジションを目指す。

・WTOの改革のために政治的支持を与え続ける。

・安全保障理事会を含め国連改革に取り組む。

・パリ協定の完全な履行に取り組む。

・パンデミックに関するWHOの新たな野心的な国際的な合意のために協力する。

 

●フォローアップの仕組み

・合意内容の履行をモニターするためにAU-EU閣僚級フォローアップ委員会の場を通じてフォローアップする。

 

 以上が主な成果(合意内容)ですが、サミットの機会に、ファキAUC委員長がスピーチを行っています。そのスピーチの中でファキ委員長は、公平な世界的ガヴァナンス・システムを主張し、その上でAU、EU双方に共通の優先課題を挙げ、資金調達メカニズムとフォローアップの重要性を訴えています。

 日本も、このようなAU側の思いを汲み取った上でパートナーシップを強化していくことが大事だと感じました。

 アフリカから学びながら、そして、多くの方の声をお聞きしながら、取り組んで参ります。ご意見をお聞かせいただければ幸いです。

 

2022年(令和4年)3月5日

アフリカ連合日本政府代表部 大使

堀内俊彦