堀内大使によるアフリカ情勢報告(第16回:2023年5月31日)

令和5年5月31日
 アフリカ連合(AU)日本政府代表部(AU代表部)の大使の堀内俊彦です。メルマガ(第16号)をお送りします。
 5月25日、AUが「還暦」を迎え、その記念式典がアディスアベバのAUの本部で行われました(私も参加してきました)。AUはその前身にあたるOAU(アフリカ統一機構)が1963年の5月25日に設立されたことから、毎年5月25日をアフリカの日としてお祝いしています(岸田総理からもお祝いのメッセージが発出されています)。
 記念式典では、ファキAU委員会委員長と、今年の議長国としてインド洋の島国のコモロのアザリ大統領がスピーチをしました(アザリ大統領はG7広島サミットにもAU議長として招待されました)。今回は、そのスピーチを通して見えてくる、AUの60年の歩みに対するAU自身の自己評価について記したいと思います。かっこ内は筆者(堀内)のコメントです。
 
【AU自身による自己評価ーこれまで】
 ファキ委員長とアザリ大統領のスピーチをまとめると、AU自身は以下をこの60年の主な成果として捉えています。
・脱植民地化(60年前のOAUの創設時は、まだまだ植民地が多く残っていて原加盟国は32カ国だけでしたが、多くの国が独立を達成して今やAUの加盟国は55の国・地域です)
・南アフリカのアパルトヘイトの廃絶(反植民地闘争と反アパルトヘイトが60年前のOAU創設当時の二大目標でした)
・アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)の開始やCOVID−19対策といった、個々の国の枠を超えたアフリカ全体としての取り組みの数々
 
【AU自身による自己評価ー現状】
 ファキ委員長、アザリ大統領のスピーチからは、現状の大きな課題として以下が挙げられています。
・紛争問題(スーダンの紛争は目下のところAUの最大関心事項です)
・様々な危機。民主主義の後退、テロ・過激主義、気候変動等々。
・ロシアのウクライナ侵攻によるインフレ、食料安全保障、エネルギー安全保障などの影響(COVID-19の長いトンネルから傷つきながらもようやく抜け出したと思ったら、ロシアのウクライナ侵攻による影響を受けて「泣きっ面に蜂」というのがアフリカの見ている景色だと思います)
 
【AU自身による自己評価ーこれから】
 60年の節目に際し、これからについては以下のような力強い言葉が述べられています。
・「将来世代に良き遺産を残そう」(アザリ大統領)
・「我々自身がまずは自らを頼もう。友人やパートナーからの連帯はその上でもたらされる」(ファキ委員長)
・なお、AUの所在地(ホスト国)のエチオピアを代表してアビィ首相もスピーチをしましたが、その中で「2050年には世界の人口の4分の1はアフリカ。つまり、アフリカに語りかけるということは、世界の4分の1に語りかけるということ」と述べていました。(「アフリカ」という一言で多様なアフリカを十把一絡げにすることは危険ではありますが)私も全くその通りだと思います。
 
 スピーチからは、現状に対する異議申し立ても感じられました。そして、安保理改革をはじめ現状を変革するための団結も強く呼び掛けられています。
 アフリカの統合については、色々な思惑があることから、今後も山あり谷ありだと思いますが、「団結は力」ということは広くコンセンサスとして共有されています(逆に言うと、アフリカが最も忌避するのが分断、特に外部要因・勢力によってアフリカが分断されることです。ロシアのウクライナ侵攻に関してアフリカの歯切れがよくないのも、ここに一因があります)。
 統合自体の流れは不可逆的だと思います。
 
 多くの方の様々な声をお聴きしながら、アフリカについて考え、行動していきたいと思います。ご意見頂戴できましたら幸いです。
 
2023年(令和5年)5月31日
アフリカ連合日本政府代表部 大使
堀内俊彦